ダークマターの正体が判明すれば、宇宙の成り立ちが分かるかも?

宇宙物理学や素粒子物理学の世界で注目されているもののひとつに、ダークマターがあります。ダークマターは存在がほぼ確実とみなされているにもかかわらず、観測が極めて困難な正体不明の物質です。ダークマターの候補としていくつかの粒子があげられていますが、決定的な解答はまだ定まっていません。

今回はダークマターについて解説すると共に、その研究の現状を紹介します。

1. ダークマターとは

ダークマター

ダークマターとは、光や電磁波に全く反応しない未知の物質です。暗黒物質とも呼ばれています。
現在天文学や宇宙物理学で使われている、光・X線・赤外線・ラジオ波などを使用した直接的な方法では観測できないにもかかわらず、重力を通じた間接的な証拠からその存在が強く示唆されています。

ダークマターは、その大きささえ分かっていません。太陽より大きいのか、それとも原子より小さいのかも判明していないのです。ただし、現在の研究では、ダークマターの大きさは、はっきりしたことは分からないものの、原子よりはるかに小さい、素粒子の一種である可能性が高いといわれています。

ダークマターは、私たちが観測できる可視物質(バリオンと呼ばれています)に比べると、約5倍は存在していると推定されており、宇宙の構造を研究する上で、無視できない存在です。

宇宙の組成の残りは、ダークエネルギーという謎のエネルギーで、宇宙の膨張に深く関係しています。宇宙の構造形成の鍵を握るダークマターと宇宙の膨張に大きな影響を与えているダークエネルギーは、表裏一体の関係にあります。

2. 宇宙での「物質」について

宇宙の組成

宇宙の組成
出展 : 東京大学 宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設「誰も知らないダークマターの正体を追う」

宇宙はさまざまな物質とエネルギーに満ちています。しかし私たちが観測可能なバリオンは、宇宙の約5%しかありません。残りのうち約27%をダークマター、約68%をダークエネルギーが占めています。つまり、宇宙の組成の95%は、現在の私たちにとって、未知の世界に属しているのです。

ダークマターやダークエネルギーの正体はまだわかっていません。ただそれが存在していて、宇宙の形態が維持されるために不可欠な存在であることが、理論的な予測や、観測で得られた間接的な証拠により、ほぼ確実だと分かっています。ダークマターは銀河系の構成を安定させるために必要な存在で、ダークエネルギーは宇宙の膨張の原動力になっていると、みられています。

一方、ダークエネルギーは斥力を発するエネルギーだといわれています。しかしダークマター以上に、その正体はつかめていません。ただしダークエネルギーの働き次第で、宇宙は永遠に膨張を続けるかどうかが決まるので、ダークマターと同様に、その正体の解明は宇宙物理学の最も大きなテーマのひとつです。

ダークマターは、観測結果から「質量がある」「電荷がない」「安定している」存在であると考えられています。このような特質を持つ粒子は、現在知られているものの中にはありません。

3. ダークマターが観測できない理由

どうしてダークマターは現在の技術では観測できないのでしょうか?

最大の理由は、ダークマターが「見えない」ためです。ダークマターは光や電磁波を反射することも吸収することもありません。そのため光学望遠鏡はもちろん、X線や赤外線、ラジオ波などを使って観測しようとしても、ダークマターはそれらに全く反応しないのです。天文学で現在使われている観測方法では、ダークマターを捉えることはできません。

科学者たちはダークマターの見つけ方として、「天文学の分野で新しい観測方法を開発し、ダークマターを探す」「実験室で加速器などを使い、ダークマターの粒子を作り出す」「空から降って来るダークマターを、素粒子を捕まえるためのスーパーカミオカンデのような大規模な施設を使って、キャッチすることを試みる」といった3種類の方法を考えています。

ただしダークマターは現在知られている物質、すなわちバリオンとの間で及ぼし合う力がごく弱いことが、知られています。光や電磁波との相互作用のようにゼロではありません。しかしバリオンとの相互作用が弱いため、天文台や人工衛星での観測はもちろん、実験室で作り出したり捉えたりすることも、難しいのです。

唯一重力を利用した観測法によって、存在の間接的な証拠が見つかるだけです。

4. 観測できないのに、なぜ存在するかも?といわれるのか

ダークマターは直接観測できないにもかかわらず、「存在する」ことが科学界の定説になっています。いったい何故でしょうか?

それは、既知の物質とエネルギーの総量から得られる重力では、現在知られている宇宙の仕組みは成り立たないためです。理論上、余分な質量が必要です。

銀河の回転速度からもダークマターの存在が強く示唆されています。現在観測されている物質(星や星間ガスなど)、すなわちバリオンの総量から導かれる回転速度は、実際の銀河の回転速度よりはるかに遅いのです。2つの値が一致するためには、まだ観測されていない巨大な質量、すなわちダークマターが存在する必要があります。

重力レンズによる効果も間接的な証拠のひとつです。一般相対性理論によって予言されている現象で、遠方にある星の光が、途中にある銀河など重力の大きな物体の影響で、真っ直ぐ届かずに曲ってしまう、というものです。重力レンズの効果は実際に観測されており、結果から含まれているダークマターの質量が推定できます。

銀河よりさらにスケールの大きい銀河団からも、ダークマターの存在が予想されます。銀河団の質量は、銀河団を構成する銀河を全部併せたものよりはるかに大きいことが、知られているからです。

銀河や銀河団だけではありません。すべてを越えた、宇宙全体の構造を探る際にも、ダークマターが鍵になっているといわれています。

現在の宇宙は銀河や銀河がひとまとまりになった銀河団、そしてそれらの間にある何もない空洞が複雑に組み合わさった大規模構造を形作っていることがわかっています。そしてこの複雑な仕組みが生まれたのは、初期宇宙におけるダークマターの密度の僅かなゆらぎがきっかけだという説が、現在有力です。

宇宙の始まりの頃、周囲よりわずかに密度の大きいダークマターが、周囲の軽いダークマターやバリオンを引き付けて星や銀河を生み、その過程が繰り返されて、現在の宇宙のような複雑で大規模な構造を作り出していったのではないかと、科学者たちは予測しています。

すなわち、現在の宇宙の仕組みそのものが、ダークマター存在の論拠になっているのです。

5. ダークマターの正体が判明したら何が分かるのか。

宇宙

ダークマターの性質として知られている「質量がある」「電荷がない」「安定」という特性を同時に持った、既知の粒子は存在しません。

しかし、理論上予言されている未知の粒子のいくつかが、ダークマターの候補にあげられています。

一番有力なのは「ニュートラリーノ」という粒子です。ニュートラリーノは未知の粒子のひとつで、WIMPs (Weakly Interacting Massive Particles)、すなわち弱く相互作用する重い粒子の一種です。

アクシオンと呼ばれている軽量の素粒子も、特定の条件下にある場合、ダークマターとしての役割を果たすのでは、と期待されています。光子の一種であるダークフォトンの一部や、ビッグバンの際に作られた原子ブラックホールなども、ダークマターの一部である可能性が指摘されています。

ダークマターの直接観測は、現在の宇宙物理学や素粒子論における大きな課題のひとつです。現在、多くの科学者が、ダークマターを直接観測して、その正体を解明するための研究に従事しています。ダークマターの正体が判明することによって、宇宙の組成の27%を占めている部分の理解が進むからです。

ダークマターの直接測定に成功するということは、新しい宇宙の観測技術を人類が手に入れることを意味します。そしてさまざまな理論の真偽が判明し、新しい物理学理論が確定するのです。

しかもダークマターは宇宙の創成期の様子から現在の宇宙構造にまで関わっています。さらにダークマターだけでなく、ダークマターとダークエネルギーの関係が判明したら、宇宙物理学は大きな発展を遂げるでしょう。

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