ゼロから始めて超小型衛星を打上げ!平方洋二さんの挑戦

平方洋二さん

昨年、超小型衛星の打ち上げを成功させた平方洋二さん。自身で創業し30年になるIT系商社を事業譲渡した後、宇宙ビジネスを行う株式会社マイクロオービターを立ち上げました。全く未知の分野への挑戦ということで、やはりさまざまな苦労や悩みがあったそうです。驚くほどのバイタリティで活動を続ける平方さんに、宇宙への関心やマイクロオービター1の製作から打ち上げまでの挑戦の軌跡について伺いました。

平方洋二さん
平方洋二さん

九州大学卒業後、日商岩井(現双日)を経て1992年にIT系輸入商社のサイバネテックを設立。 2020年3月サイバネテックを事業譲渡した後、宇宙に関係する会社マイクロオービター社を立ち上げ 2024年に超小型通信衛星マイクロオービター1の打ち上げ、軌道放出に成功。 現在は「日本ウクライナパートナーシップ協会」の理事長も務める。

平方さんは、以前から宇宙事業に関心があったんですか?

宇宙事業ではなく、宇宙の成り立ちに興味がありました。例えば、宇宙は砂粒のような非常に小さいものから、指数関数的に膨張してできたという理論があります。ワクワクしながら本を読んでいました。

その後、北海道でロケットを開発するインターステラテクノロジズや、人工流れ星を降らせるALE(エール)、宇宙デブリを除去するアストロスケールのような、ベンチャー企業がどんどん出てきまして。そこから宇宙ビジネスに興味を抱くようになりました。

学生時代からとの事ですが、具体的に宇宙のどういうところに興味を持たれたのですか?

成り立ちの次に興味を持ったのが、相対性理論の骨格の部分です。
光の速度はどこから見ても一定だということを、アインシュタインが発見したんですね。理論を組み立てると確かに、光の速度に近づくほど物体が急に大きくなったり、時間が相対的に伸び縮みしたりすることが、自然に導き出されます。ちっぽけな地球の中の、さらにちっぽけな人間がこれを解明しているとは、非常に衝撃的でした。

平方さんはいつ頃から、超小型衛星を打ち上げようと計画していたのですか?

サイバネテックを退任した2021年3月の少し前から、宇宙ビジネスについて何かしなければと、ぼんやり考えていました。

以前は上空150mの経済空域で、ドローンを使ってビジネスをしていたのです。次は上空400kmの、いわゆる「低軌道」を経済的に使えるのではと、その空間に打ち上げる低軌道衛星について考え始めました。全く未知の分野ですので、どうアプローチするか思案しましたね。

サイバネテックで新商品の開発を色々とやってきたので、今回もできるのではと思ったんですよ。ところが多くの方に話を聞くと、やはり超小型衛星の打ち上げと、新商品の開発は根本的に違う。新商品開発は成功すれば大きな収益が期待できますが、超小型衛星の場合、打ち上げてすぐ収益につながるわけではないのです。

じゃあ何のために打ち上げるかと言えば、やはりどうしてもすべてのプロセスを経験し、成功させたいという好奇心でした。スタートから打ち上げまでのプロセスには、技術的なもの、許認可プロセス、打ち上げに向けた数々の契約などがあります。

一般の新商品と違い、超小型衛星の打ち上げだけでは、ビジネスにならないのですね。やることは数多くあったかと思いますが、どういう形で工程を組んでいましたか?

打ち上げに向けパートナーシップを組むにあたり、たくさんの方に相談したんですね。その意見を総合すると、6つの条件に集約できました。

【1つ目】は、非常に大きな初期投資です。

【2つ目】は人材。人工衛星はもちろん、地上の端末も開発しなければならないので、さまざまな分野のエンジニアが必要です。
空中に浮かぶ衛星との通信には、電波も必要ですよね。周波数や電波免許の関係など、日本では非常に難しいとされる、許認可を取得できる人材が求められます。

【3つ目】は、事前試験のための設備。人工衛星は宇宙に行ってしまうと修理が効かないので、打ち上げ前に、宇宙の環境で動くかどうか試験が必要なのです。したがって真空熱試験装置や振動試験装置、電波試験装置が要ります。

【4つ目】は、衛星と地上の通信に欠かせない、地球局。

【5つ目】は、衛星を組み立てるための設備であるクリーンルーム。

【6つ目】は、ロケット打ち上げ業者との契約です。

振動装置やクリーンルームといった設備関係は、お金もかかりますが、何が必要か一つ一つ考えないといけませんよね。わからないことも多かったと思いますが、やはり暗中模索だったのでしょうか?

暗中模索ではダメで、そこが他のタイプのビジネスと全く違うところです。トライアンドエラーではなく、一気に・パーフェクトにやらなければなりません。

特に試験装置が結構大きいんですね。熱試験装置のサイズは、私達が今いる部屋の4分の1くらいはありますし、電波暗室もこの部屋の2倍ぐらい。また地球局については、とても自分で購入はできません。

九州工業大学との出会いが大きかったとのことですが、どのような経緯でパートナーシップが始まったのですか?

今申し上げたような壁を乗り越えるための、パートナーを探す必要があると考え、設備が揃っている有名な大学に当たりました。その結果九州工業大学さんが、一番反応が良かったのです。人材確保について先生方とお話しできたのも、決め手の一つでした。

九州工業大学と共同でマイクロオービターワンを打ち上げると決めてから、どのように進めたのですか?

2024年3月18日、九工大で開催された超小型衛星「MicroOrbiter-1」の完成披露会の様子

2024年3月18日、九工大で開催された超小型衛星「MicroOrbiter-1」の完成披露会の様子

まずどんな人工衛星を開発するかという、ミッションを決めないといけません。私は最初、カメラを使って地球を撮影するといった一般的なものをイメージしました。

しかしながら大学の先生と話し合い、まだ実績が少なく、今後必要になるであろうものに決めました。それが、LoRa(ローラー)変調方式の920MHZのIOT衛星通信を可能にする超小型衛星です。いわゆる低消費電力・長距離通信能力が売りであり、地上装置が比較的コンパクトかつ安価。しかも電波については、あまり免許が厳しくありません。

日本は、陸上の通信は非常に発達しています。海上からのSOSや、場合によっては火山など危険な場所に置けるようなセンサー端末からのデータを、衛星は拾えます。漁船など船がどこにいるか、位置情報も活用できますね。LoRa変調方式の920MHZも地上では普及していますが、宇宙での衛星通信にはあまり使われていません。

元々地上で使われている技術を、宇宙でも活用するにはどうするか? というチャレンジだったのですね。

日本の地上で使う場合、920MHZの電波免許は要りません。衛星でやるには電波免許が必要になりますが、端末も比較的安くできる。後は、宇宙で本当にできるかどうかですよね。地上だとせいぜい何kmかのところ、宇宙では400kmと、距離が全然違いますから。

衛星を打ち上げるにも、色々な方法があります。1つはロケットで同期軌道に直接投入する方法。もう1つは一旦国際宇宙ステーションISSへ持って行き、日本の実験棟「きぼう」から打ち出す方法です。私たちは、後者を採用しました。

放出された衛星は地球の軌道を回る形になると思うのですが、安定するものなのでしょうか?

ISSと同じ、地上約400kmの軌道に乗っているわけですので。バネの力はそんなに強くありませんから、一旦放出された後は慣性の法則のように、ISSと同じスピード・高度で回ることになります。

マイクロオービター1の制作について伺います。工程が色々あったのではないでしょうか?

作業工程表があり、非常に細かく分かれています。
4つの節目「レビュー」があり、まず「MDR(ミッションデザインレビュー)」が登場します。次に「PDR(プレリミナリーデザインレビュー)」。それから「CDR(クリティカルデザインレビュー)」が続き、最後が「FRR(フライトレディネスレビュー)」です。

その4つのレビューの前後に色々な作業をする。具体的には工程の改善や作業スケジュールの調整などを、関係者全員で話し合っています。レビューは非常に重要な要件なのです。

途中で「EM(エンジニアリングモデル)」というものも作ります。これがないと、最終的な「FM(フライトモデル)」に行けないのです。FMで宇宙に行き、もし何か障害が発生した場合、地上にあるEMを使ってチェックします。必ず2つとも作らないといけないので、コストは非常にかかりますね。

開発から打ち上げまで苦労が絶えなかったと思いますが、特に苦労したことは何ですか?

やはり、JAXAの安全審査のプロセスです。これには技術的な面と、いわば安全に関する許認可関係という2つの側面があります。私は技術的なところは疎かったので、技術者と話しながら進めていました。その際、JAXAはSPACE Xと話さなければならず、ISSについてはNASAと話す必要がある。その関係上、ほとんど英文のドキュメントでやり取りしていたのが大変でした。

マイクロオービターのような超小型衛星が、今後どのような分野で活躍できると考えていますか?

「Store & Forward方式」が可能になります。まず、地上のセンサー端末からのデータを、簡潔的に衛星側が受信する。そして超小型衛星の場合、色々なデータをメモリーにまとめて保存するんですね。特定の場所の上空に来た衛星に、地上局からリクエストコマンドを送ることで、蓄えてあるデータをダウンロードできます。

具体的にどういう場面で使えるかと言うと、地上の通信ネットワークでは対応できないような海上、遠隔地や山の中、戦地など危険な場所です。そういった場所にセンサー端末を設置すれば、衛星でデータを拾えます。

衛星によるStore&Forward方式だと瞬時に情報が伝わり、災害時などにもメリットがありそうです。

はい。地上波ネットワークでカバーできない部分も補えて、スピードが重要となる災害時に貢献できると思います。大きな衛星通信だと打ち上げにお金がかかりますが、超小型衛星はコストも数十分の一です。

能登地震でインターネットがつながらなくなったときも、宇宙から基地局を作ってインターネットを回す、「スターリンク」を使う事例もあったそうですね。

今までの衛星は非常に大きく、制作にも1〜2年かかるので、何千台も打ち上げることはできなかったんです。小型化すればいっぺんに50個、100個と打ち上げられるので、日本もそうできたら本当にすごいですよね。

宇宙に関する事業を始めるにあたり、マネタイズの難しさについてはどうお考えですか?

ベンチャー企業の誰もが、事業の収益化は非常に重要視していると思いますが、私は少し考えが違います。マイクロオービターは企画開発会社として設立されています。理由は、宇宙ビジネスはスパンが非常に長いから。投資家も非常に慎重な方が多いですし、人工衛星を打ち上げてすぐの収益化は無理だと思ったんです。まずは一つの技術モデルを確立することを、大きな目的としていました。

最後に、”ゼロからでも宇宙を始められる”を実践された平方さんから、これから宇宙事業を始めようとしている人にアドバイスはありますか?

宇宙事業にも2つ考えがあり、自分で会社を作りたいのか、それともどこかの会社に入って事業に携わりたいのかで、全く違ってきます。もし会社を作ってやるにはさまざまな人と話して、最初に申し上げた5つの条件などを、本当に実行できるか考えないといけません。

一番良いのは、日本の大学と関わりを持つこと。ロケット開発なり衛星開発なり、将来やりたい事業の研究に参加していると、非常に有利になるのです。大学の先生との連携も、後々大事になります。そういった環境に身を置ける人が、日本の宇宙産業・宇宙事業を発展させる、パイオニアになれると思っています。

取材:2025年2月3日
X-NIHONBASHI Studio インタビュアー:岩岡 博徳 (東洋大学大学院特任工教授/中小企業診断士)

平方洋二さんへのインタビューについては、YOUTUBE動画でも紹介しております。
動画の方も是非ご覧ください。
#4【インタビュー前編】ゼロから始めて超小型衛星を打上げ!平方洋二さんの挑戦
#5【インタビュー後編】ゼロから始めて超小型衛星を打上げ!平方洋二さんの挑戦
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