スペースデブリは宇宙の厄介者

1. スペースデブリとは

スペースでブリ

「スペースデブリ」とは、地球の周囲を周回している、役に立たなくなった人工物のことです。「宇宙ゴミ」と形容されることもあります。

2. スペースデブリの起源

スペースデブリのほとんどは、初期の宇宙開発で活躍したロケットや人工衛星の残骸や破片です。人工衛星の残骸に燃料が残っていて爆発したり、デブリ同士が衝突したりすることで、破片はどんどん増加します。船外活動中の宇宙飛行士が誤って手放した工具袋なども、デブリになって軌道を漂います。 以下のグラフからも分かるように、人類が宇宙で活動を始めた1960年前後からデブリの数もうなぎ上りです。

スペースでブリ

出展:JAXA|宇宙状況把握(SSA Space Situational Awareness)

現在地球を回る軌道にある物体は、基本的に米国宇宙軍(USSF)が監視しています。USSFによると、監視対象のほとんどはスペースデブリで、ソフトボールより大きいサイズのものが3万個近くあるそうです。 さらに小さいデブリに関しては、欧州宇宙機関(ESA)が、1センチメートル以上のものが100万個、1ミリメートル以上のものが1.3億個以上あると、推定しています。

3. スペースデブリの危険性

スペースデブリは、地球の周囲を漂っているわけではありません。デブリも宇宙船と同じように、地球の軌道を周回しています。その速度はとても速く、秒速7~8キロメートルにも達します。たとえ数ミリメートル程度の小さなデブリであっても、運用中の人工衛星にぶつかった場合、故障が起こったり、最悪の場合は動作を停止したりする可能性がある速度です。それがISSのような有人の設備であった場合は、人命にかかわる事態が生じることも考えられます。

デブリの増加に関連して、現在「ケスラーシンドローム」が心配されています。 この現象が起こると、軌道上を周回するデブリ同士が衝突することで新しい破片が生まれ、デブリが自己増殖を始めます。仮に今後人工衛星の打ち上げを完全に止めてしまっても、宇宙空間ではスペースデブリが勝手に増え続けてしまいます。

このシンドロームが深刻になると、新たな人工衛星の打ち上げが難しくなり、将来の宇宙開発が制限を受けるかもしれません。

4. スペースデブリの追跡と管理

スペースでブリ

世界には、スペースデブリの監視システムが、いくつか存在します。例えば米国の宇宙監視ネットワーク(SSN)です。SSNは地球の周回軌道にある人工衛星からデブリまでを、検出・識別・追跡するためのシステムです。SSNは軍事的・科学的な目的の両方で利用されています。

現在考えられているデブリの対策としては、以下のものがあげられます。

① デブリの除去・削減

デブリの数そのものを減らすことが、最も確実な対策です。研究者によると、年間5つのリスクの高いデブリを除去することで、軌道上の環境が安定するそうです。 そのため、世界中の企業や団体が、デブリを減らすための技術開発に乗り出しています。日本にもいくつかのスタートアップ企業が存在し、JAXAなどと協力しながら、ビジネスを進めています。

② デブリの監視・観測

より現実的な対策としては、デブリの監視・観測を続けて、宇宙での衝突事故を防ぐことです。このような活動を実施している機関としては、前述のSSNの他に、ロシア連邦宇宙庁やESAがあげられます。日本でもJAXAや防衛省がデブリの監視を担当しており、美星スペースガードセンター(BSGC)と上斎原スペースガードセンター(KSGC)の2施設が、その重責を担っています。

③ スペースデブリに対する防御

ミッションを遂行中の宇宙船の場合、不意に飛んでくるデブリに対する防御も考えなければなりません。 防御の基本的な考え方は、「衝突しても大丈夫な盾を用意する」ことです。特に人命が第一の国際宇宙ステーション(ISS)では「盾」は必用不可欠な装備です。そのためISSの外壁の外側には「ホイップルバンパー」という装備が設置されています。衝突の際は熱で溶けて穴が空きますが、1センチメートル以下のデブリであれば防御が可能です。

デブリの除去は、法律面からも制限を受けています。宇宙の物体の管轄権は、その物体を条約に基づいて登録した「登録国」が握っています。そのため、その物体が人工衛星として稼働している間はもちろん、デブリになった後も登録国の了解がなければ、第三国が取り除くことはできません。

デブリを低減させるためのルールとして、2007年に国連宇宙平和利用委員会(UNCOPUOS)が承認した「デブリ低減のためのガイドライン」や、2008年にEUが提唱した「宇宙活動に関する国際行動規範」があります。 ただしこれらはガイドラインに過ぎず、実効力はありません。議論は現在も進められています。それらの議論が早く実を結び、真に効力のある国際条約が成立することが、望まれます。

5. スペースデブリの対策

スペースでブリ

デブリの最終的な対策は「どうやって物理的に除去するか」です。

その主な方法としては下記の通り、さまざまなものが提案されています。

  • ①宇宙船からロボットアームでデブリをつかむ
  • ②宇宙船から網を使ってデブリを捕獲する
  • ③宇宙船からレーザーを発射してデブリの方向を変える
  • ④地上からレーザーを発射してデブリの方向を変える

デブリを捕獲した後は、通常より高い墓場軌道(約37,000キロメートル)に上昇させるか、大気圏に突入して燃え尽きてしまうような低い軌道へ降下させて処分します。

デブリの発生を防ぐには、人工衛星や宇宙ステーションの適切なメンテナンスが不可欠です。定期的に点検して、故障したり老朽化したりした部品を修理・交換することで、故障によるデブリの発生を防ぐことが可能になります。 また運用中は軌道を微調整することで、デブリとの衝突を防ぐことも可能です。 それだけでなく、運用が完了したとき大気圏に再突入して燃え尽きるような機能を搭載することによって、新しいデブリの発生を防ぐための研究も行われています。

6. まとめ

スペースデブリの大半は、宇宙を漂う人工衛星の残骸やその破片です。デブリは速い速度で地球を周回していて、稼働中の人工衛星に衝突したら故障を引き起こす可能性があります。スペースデブリに関するルールはガイドラインこそあるものの、実効力のある条約はまだ締結されていません。 現在宇宙を漂っているデブリは、各国で監視が続けられています。また、デブリの除去・削減を目指した研究も進みつつあります。

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