宇宙空間での食の楽しみを実現する宇宙食、その技術は地上でも生かされている!

宇宙食と宇宙飛行士

映画やドラマで見る宇宙食、どこか未来的で無機的なイメージがあります。
地球とは異なる環境で過ごす宇宙飛行士にとって、食事による栄養補給は最重要課題のひとつ。宇宙開発の進展とともに、宇宙食も驚くほどの進化を遂げてきました。

その宇宙食、最近では日本食や生鮮食品を取り入れる試みも始まり、地上での災害食技術にも応用されています。
今回は、宇宙食の役割や条件を含め、近年の宇宙食事情を詳しくご紹介します!

1. 宇宙食とは

宇宙食とは、宇宙船で食べられる状態に生産された食事のことです。

有人宇宙飛行の歴史とともに始まった宇宙食の歴史。その変遷を解説します。

宇宙食とは?

宇宙で食べることを目的とする宇宙食。飲み物も固形物も、宇宙の無重力状態では空中に散らばってしまいます。

初期の宇宙食は、飲み物はふたのある容器からストローで吸い、固形物もふたのある容器からひとつひとつ手に取って食べるのが基本でした。宇宙食は、保存性の高さ、軽量であることも大切な条件です。

初期は加工せずに食べられることが条件だった宇宙食も、さまざまな発展を遂げてきました。栄養補給にだけ重点を置いていた宇宙食は、技術の発展とともに、宇宙飛行士が楽しめる食へと変遷を遂げつつあります。

宇宙食の変遷

まず宇宙食の歴史で忘れてはいけないのが、1961年から1972年に行われたアポロ計画です。

アポロ計画は、宇宙食の転換点となりました。月へと向かう宇宙飛行士たちによって、温水を使った食事の処理が実施。水を投入すると、スクランブルエッグやチキン料理が食べられるようになったのです。また、ジッパー付きの袋に入った食事を、スプーンで食べることができるようになったのも、アポロ計画が発端です。

1973年から1979年に実施された、地球を周回するスカイラブ計画でも、宇宙食の新たな試みが展開。冷凍や冷蔵の技術、食事の加工が行われ、アルミ缶入りの食事が登場しています。

スペースシャトルの時代になると、「食事を楽しむ」というコンセプトを含んだ宇宙食が開発されるようになりました。宇宙飛行士が1日に3,000kcalを摂取できることを基本に、幅広いメニューを開発。加熱は85℃まで可能になり、65℃で保温できるオーブンが利用されるなど、目覚ましい発展を遂げました。

近年では、宇宙飛行士たちの出身国の郷土料理が加えられ、宇宙日本食も登場。また宇宙で自給自足を可能にする宇宙食プロジェクト「Space Foodsphere」が発進し、宇宙食は目覚ましい進化の過程にあります。

2. 宇宙食と地上の食品の違い

宇宙食と地上の食品の違い

地上のメニューが宇宙食として楽しめるようになった一方、宇宙食には厳然たるルールが存在します。開発が進む宇宙食のメニューとともに、宇宙食の条件を解説します。

多彩な宇宙食メニュー

地球で食べる食事と変わらないメニューが楽しめるようになった宇宙食。話題になった宇宙食はバラエティー豊かです。

いくつか例を挙げてみましょう。

2008年、韓国人宇宙飛行士のためにキムチが登場。
2013年、フランスの星付きシェフ、アラン・デュカスがフランス料理の宇宙食を考案、鴨料理やチョコレートケーキが登場。
2015年、イタリアのコーヒーメーカーによってエスプレッソが飲めるマシンが開発。
2017年、宇宙ステーションでピザパーティー開催。
2021年、宇宙で栽培された唐辛子を使ったタコス登場。

また宇宙開発の先進国であるロシアも、ボルシチをはじめとする300種のメニューを開発。生鮮食品も持ち込めるようになり、食の楽しみはどんどん拡大しました。宇宙食の多彩化は、宇宙飛行士の心身を支えています。

宇宙食と地上の料理との違い

しかし、宇宙食には地上の食品とは異なる点が多数あります。宇宙食の主要な条件は次の5つ。

① 保存性が高いこと(常温で1.5年以上)
②宇宙飛行士の健康維持に必須の栄養が供給できること
③保管スペースを取らないこと
④ 限られた調理方法で料理できること
⑤微小重力下での食事が難しくないこと

火事などの事故を誘発しないよう、パッキングも万全に行われる必要があります。

宇宙船内は、限られたスペースしか使えません。2024年に運用されているキッチンツールは、オーブンと給水設備のみ。食品の保管や食事をする空間も、決して広いとはいえないのが実情です。宇宙船内の電気系統や空気洗浄のシステムに影響がないよう、食べかすやにおいにも注意が必要となります。

医療知識をもつ宇宙飛行士が多いことはよく知られていますが、宇宙飛行は健康を維持することが最重要事項です。宇宙食も、衛生面に最大限の注意が施されています。食中毒にならないよう万全の処理が施されるのです。

3. 宇宙日本食とは

過酷な条件の下、ミッションを遂行する宇宙飛行士たち。彼らにとって、自国の料理でエネルギー補給できることは、体力面だけではなく精神面にもよい効果をもたらします。

各国に負けじと、JAXAも宇宙日本食を開発してきました。日清食品やキッコーマンなど、日本の企業31社の協力を得て開発された宇宙日本食、実に56品目に及びます。

宇宙日本食は、日本人にとってなじみのある家庭料理が中心。ごはんやおにぎりはもちろん、ウナギのかば焼きやきんぴらごぼうのような典型的な日本食のほか、ハンバーグやカレーなど、日本人が大好きなメニューも含まれています。

宇宙食と地上の食品の違い

©ハウス食品

たとえば、ハウス食品が開発した「スペースカレー」。

宇宙空間における味覚を考慮して、よりスパイシーな味つけになっています。宇宙での滞在をイメージしながら宇宙日本食を食べるのも楽しいものですね。

ハウス食品のスペースカレーをはじめとする宇宙食は、「宇宙の店」という宇宙グッズの専門店でも購入可能です。

※「宇宙の店」については、KosMosの施設紹介記事でも特集しております。

宇宙日本食は、食事だけにとどまりません。柿の種やカップラーメン、羊羹や緑茶、マヨネーズをはじめとする調味料など、日本人宇宙飛行士が子供のころから味わってきた食品がつぎつぎに誕生。将来的には、他国出身の宇宙飛行士にも、宇宙日本食を提供したいとのことです。

4. 新しい取り組み「3Dプリンターで"すし"を再現」

未来の食として注目を集めている「3Dフードプリンター」。

食材を無駄なく活用しきることや、年齢や体調などに合致した栄養を補給できるメソッドとして、脚光を浴びています。

3Dフードプリンターの研究では最先端を行く山形大学。同大学の古川英光教授は、「宇宙ですしを食べる」というユニークな目標を掲げて、食品プロジェクトに取り組んでいます。

3Dフードプリンターとは、どのような食品なのでしょうか。

3Dフードプリンターは、さまざまな食材をペースト状に抽出して食材を造形することができます。必要な栄養価の調整や、衛生面でのメリットは、宇宙食にも向いているとされています。

山形大学の古川教授は、多様な3Dフードプリンターを活用し、無重力状態でできる宇宙食を考案しています。

古川教授が完成させた3Dフードプリンターは2種。

1つ目は、ペースト状の食材を押し出して積み重ねる方式。
2つ目は、液体状の素材をレーザーなどで硬化させながら成形する「バスタブ方式」と呼ばれるものです。

古川教授はさらに、さまざまな企業とコラボして3Dフードプリンターによるすしを考案。いずれは宇宙飛行士たちが、宇宙ですしを食べられるよう研究を進めています。

研究開発は着々と進行中ですが、課題も残っています。なかでも機械の小型化と高速化は最重要課題。

将来的には、お弁当箱くらいのサイズの装置を目指しているそうです。

5.宇宙食の技術を地上でも応用する試み

宇宙食の技術を地上でも応用する試み

厳しい条件を満たして作られる宇宙食。

栄養価、保存性、調理の簡易性、衛生面における万全の配慮など、宇宙食は災害食にも通じるものがあります。

JAXAは一般社団法人日本災害食学会と連携し、開発された宇宙食を地上生活でも活用することを決定。すでにいくつかの宇宙食は、日本災害食の認定を受けました。

宇宙食の役割は、宇宙にとどまらず地球上に広がりつつあります。自然災害が増えている昨今、備蓄される宇宙食は、私たちにとってより身近な存在になるかもしれません。

宇宙のために開発された食の技術は、宇宙飛行士の心身の支えになるはずです。そしてきっと、災害で傷ついた人たちの心身を癒すことになるでしょう。

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